2020 釣乃記
第拾壱話  雨雲がそこまでやってきた
(濁りが入ったらさすがにだめでしょ) 僕は欲を出して行った大場所の、やや濁りで波立つ増水の様子に、すぐに引き返すことになんの躊躇もなかった。
この日の本命の支流から約20分くらい走ったはず。その20分の距離をとんぼ返りであと戻り。
目当ての支流を通過して戻ってで40分のロス。しかし焦る事はなかったようだ。この支流に、というか、この日に渓流に釣りに来る人は居そうになかった。
週の半ばに梅雨入り、週末土日はずっと雨の予報だった。

数秒迷った理由は(たいし時間ではないが)昼飯の準備だった。結局もっていかず、コンビニおにぎりで済ますことにした。
実はこの土曜日にネットで注文していたアルコールストーブが届いていた。ガソリンやガスに比べたら火力は非力なのに、なぜ今アルコールストーブなのか? 決め手はネットでキャッシュレス決済したら10%還元されるということだった。しかしアルコールストーブ自体はちょっと前から気になっていた。五月の連休の外出自粛の時もよほど買おうかと思ったが買いそびれていた。色々迷ったのはやはり釣りに持って行った時のガスストーブなどと比べての火力の弱さだった。
手早く湯を沸かしたい時だと、ガスに比べてアルコールはどうしても時間がかかるのが気になりそうなのは想像がつく。逆に音が静かとか燃料が安いとかのメリットもある。
初のアルコールストーブ。アルストって略すみたいです。知らんかった(^^;)
霧に沈む谷へ向かう。そこは高濃度の湿度なのは間違いない。
ボツンっと手に水滴が当たった。あ? いや、雨だ。昼まではそんなに降らない予報だが。
けっこう降ってきた。しかし上の方は木々に覆われていて、そんなには雨粒は落ちてこない。でも本降りになったらこうはいかなさそうだ。

今度はチビヤマメが釣れた。この川はゴギとヤマメが混生している。しかもゴギが上流とは限らない。
偏光グラスが曇り投げたフライが見えにくい。いや、見えない?
なんとか釣りになるレベルの増水。魚が居るかは別。
土曜日は時折止み間はあったもののかなりの雨量だった。川の増水は疑う余地はなく、翌日曜日も日中はおおかた雨が降り続く予報に、僕は釣りの準備は全くする気はなかった。
ところが日曜の朝、目が覚めると雨の音がしない。スマホで時間ごとの予報を見ると北部でも昼まではたいして降らず、午後から強く降る予報に変わっていた。
釣り道具だけ積んで行くか? 僕は数秒迷って、車に荷物を積み始めた。
CX-3くん、雨の中を帰るとしましょうか。
冷静に考えれば最初に行った場所は大増水に決まっていた。
僕は改めて増水時ならここだ、という支流のポイントを目指して谷の底へ下りていった。
去年も何度が増水したらここに来ていたが、そのどの時よりもこの日は水が多い。前夜の雨雲レーダーでこの辺りが赤くなっていたのを思い出した。
川に下りると湿度の高さが僕を取り巻いた。90%は越えているに違いない。
緩流帯ですぐに小さいゴギがフライをくわえた。
合わすと掛かった。沈んだフライを食ったのか?
雨に洗われた白い石が川底に並ぶ流れに、ヤマメのパーマークが玉石のように浮かび上がってきた。

雨足が強くなった。予報よりは少し早かった。僕は川から上がり車に向かった。
昼飯は予定通りコンビニおにぎりを車の中で。釣行でのアルコールストーブはまた次の機会だが、家に帰ったらアルコールストーブでお湯を沸かしてコーヒーを淹れよう。
マシュマロをくわえたヤマメ様。増水の中、お疲れさまです。
ねえ、去年の大きいゴギさん、知らない?
今回もマシュマロは好反応。