2020 釣乃記
第八話  ひと月先の未来へ
(ライズでもなければ攻めようがないなあ)と僕は思った。
いつもよりひとつ手前のインターチェンジで下りたから、この予定した川で釣りをせず別の川へ移動するなら、大幅な時間のロスになる。
やはり本流の大場所の流量と流速を目の前にすると、たじろいでしまう。
でもせっかく来たのだから、と僕は予定通りこの辺りで竿を出すことにした。
家を出てから川まで1時間ちょっと、60kmの行程だった。
さらには直射日光のパワーがかなりきつい。気温もどんどん上がってきている。もう早朝ではないにしても、これはいつの間に?という気がする。そもそもこの辺りは五月中〜下旬なら早朝か夕まづめでないと釣りはむつかしかったかもしれない。大きめのドライフライをキャストした。やっぱりライズでもなければ、漫然と流していても釣れそうな気がしない。

この日の前日、釣具屋に注文していたS社のウェーディングシューズを取りに行った。一緒にソールに取りつけるアルミのクリーツも受け取ったが、靴底のパターンとクリーツの形が見るからに合わない。店の人にメーカーに電話で確認してもらうと、どうも僕の注文した一番安いシューズはただのネジ型のピンしか打てないらしく、よく読んだらカタログにもそう書いてあった。
いきなりこんなロケーション!? あわ食ってます。
沈み石のあるいい感じの区間もあります。魚はいません(^^;)
ネットで安いのを買おうと思っていたが、店に型落ちのモデルでいい感じのがあったので、買ってしまった。
この日の日差しの強さで偏光なしだと釣りにならなかったかも知れない。
それにしても僕は偏光グラスとの巡り合わせが悪い。破損させたものも2年くらいしか使っておらず、その前のは紛失したのだがやはり2年くらいだ。
スッとフライの流れる辺りに飛沫が小さく上がった。合わすとドスンっと重い。
(あっ!)一瞬でグリップを失い、僕は尻餅をついた。二回目だ。やっぱり危ない。本流のヌルヌルの石でクリーツなしのシューズだと恐ろしく滑る。
ドライとウェットを付け替えつつ、よたよたと移動しつつ、支流との合流点近くまで来た。
かなり波が立っていて荒い流れだ。日差しが強く照りつけ、波が光を反射する。
実は前日の釣具屋で偏光グラスも買っていた。緊急事態宣言の出る前の釣行で、それまで使っていたのを破損してしまったからだ。
本流には広い河原が付き物。川はどこだ〜。
移動だけで相当体力を消耗してます(>▽<;)
この日の前日に県の外出自粛要請が解除された。県をまたぐのはまだ控えるので、なるべく近くの川へ行こうと自粛解除の最初の週末の予定を立てた。
うちから一番近いマス類が釣れる川となるとそれは本流だ。この際、気になっている本流ポイントを巡ってみるのも悪くないと、川を目の前にするまではのん気に考えていた。
道路から一段下へ降りるのも大変、そこから河原まで行くのも大変、ようやく辿り着いたら手に負えなさそうな激しい流れ。
巻いた時の形がほぼ残ってませんが。
アルミのクリーツは食いつきがよく、ビブラムソールには欠かせないと思っていたが、今回僕が買ったシューズはビブラムソールですらなかった(例の黄色いマークが無い)。
そんな訳でこの日の釣りにクリーツなしで本流筋の滑りやすい川の中を歩く困難さが加わってしまった。

ドライフライで出ない流れにひょっとしたらとウェットを流してみる。ニンフでもいいかも知れない。しかしそれに掛かる魚はいなかった。
ふと、桜の咲く頃の釣りを思い出した。二週連続満開だった。それがまるでひと月ちょっとを飛び越えたように、桜は消え新緑は濃い緑に変わっている。
その間も日常生活はちゃんとあったのだが、抜けている釣りの時間は埋まらない。この時期は釣りが生活の一部になってるんだと、今更ながら思った。

きっと偏光グラスがなければ気付かなかったフライへの反応。僕は滑るシューズでよたつきながら重たい引きをこらえた。
唯一の釣果。本流育ちの魚体にうっとり(*^^*)