2020 釣乃記
第六話  桜の里に惑う
土手から桜の花をバックに顔を出したのはFさんだった。
「そこ、出ませんでしたか」
僕が釣れなかったと言うとFさんは残念そうにそう返した。
「弁当食べたら峠を越えて向こう側の川をやってみます」と言ってFさんは顔を引っ込めた。
僕も早弁をやったりするが、お昼のハッチライズの時間を避けての昼食。それにしても早過ぎない?
ま、朝昼兼用のブランチということならちょうどいいかも。
今シーズン何度か入った区間。合わせの失敗数度、まだ目当ての魚を手に出来ていない。しかしここではライズは見当たらず、そこここで小さいヤマメが釣れた。小さい、全部小さい。もっといいのが去年は居たんだけどなあ。なんだかんだでこの流れのどれかのポイントでこの日の釣りが満足できるヤマメが釣れるだろうと、そういう着地点をイメージしてこの日は釣りに来ていた。そこがチビばかり。途端に僕は焦った。Fさんのように思い切って水系を変えるべきか? この川にもまだアテはない訳ではない。そちらに賭けるか? 僕は後者を選んだ。徐々に強まってきた風が気になった。
去年に引き続き、今年も満開に当たりました。
だんだん気温も上がり、なかなかいい運動になってきました。
昼寝のあと、下流側へ移動。途中の川沿いの桜並木の所で車を停めた。
川の様子を見るつもりが、見事な満開の桜に見入ってしまった。地元のおばあさんが居たので「満開ですね〜」と話しかけ、あれこれ話し込んだ。

桜を見れたから満足、とはいかないが、それでも十分充実した釣行だと思える。
願わくば、もうひとサイズ大きいヤマメを釣りたい。
Fさんと話したあと、上流側へ進むとライズ発見。
この日は18度まで上がる予報、ライズもあると期待して来た。なかなか良さそうな水面のヨレ方。一投で出た。あ、そんなに大きくない。
水は前回と変わらない水位。週半ばにまた降ったので、一度減ってまた増えた感じだ。
まだ気温は上がらず風がややある。そして目立ったハッチはない。ライズも何に対してかが今ひとつつかめない。
桜の里で桜を見てヤマメを釣る。来週は散っているか〜(^^;)
波立つ流れからのヤマメ様。
何年か振りで入った区間。近いところの流れは工事で様子が変わってしまい、ここもなんだか入る気にならなくなっていた。
少し土手沿いにくだると、思ったほど様子は変わっていない。ただ水の多さが流れを激しくさせていた。
波立つ流れにぽっかり浮くCDCパターンを投げた。と、ズバッと魚体が流れから飛び出した。合わすが掛からない。
なんだ〜、こんな早い流れに潜んでいるのか〜。
桜の里は今が旬です(*^^*)
小さいけど出方が良かった一匹。
桜の木の下でもぐもぐタイム。
その後もう一箇所。しかし結果はライズも反応も全くなかった。水位と気温からして悪くないはず。かなり釣り人が入ってスレたのだろうか。
そして遅まきながら僕も水系を変える事にした。もう15時をまわっていた。
移動先の川は陽が山の稜線に隠れ、光量も減っていた。そしてここでもライズも反応も0だった。
川筋のかたわらの桜だけが明るい色を放っていた。
その次の一投、手前まで流してぼしゃっと出た。合わしたが、合わせられたのか? よくわからないままラインが流れ下ったのを手でたぐり寄せた。するとなんか掛かっている。ヤマメだった。こりゃ、手釣りしたようなものだ。最初に出たやつは何日か経ってもう少し水位が下がった時に狙えるかも知れない。場所は覚えた。

昼飯を取る事にして移動。その場所は桜が満開だった。この川沿いの集落のあちこちに桜が咲いている。満開の今、集落全体が桜色に染まっている。ささっと昼食の準備し食べてひと眠りした。桜の木の下でヤマメを釣り、食べて寝て。至福のひと時。