2021 釣乃記
第玖話  幅広のライズする川
最初に入ろうと思っていた場所にバイクが停まっていた。去年もみたことのある、確か話もした人のバイクだ。餌釣り師だったはず。
僕は取って返し、下流側から入ることにした。
そこは以前熊を見てから通して釣り上がることを避けていた。時間帯はあまり熊が活発に動く時間ではないので大丈夫だろう。
水位はやや多め。一日前なら通すのは無理なくらい多かったろう。それにしても水が冷たい。前回の雹はこの辺りの山にも降り、それが溶けて流れ込んでいるのは間違いなかった。
そのポイント、細いプール状の中間はカワムツが溜まっている。ここは一番良い所に最初に落とす。慎重にキャスト。すぐに出た。カワムツだ。核心部には届いていない。もう一度キャスト、更に大きなカワムツ。ヤマメはいないのか?
更にキャスト。核心部の一番良い所に落ちた。ここで出なければいない。核心部をギリギリ通過・・した。バシャっと出た!
合わした。ゴンっと手応え。合わせ切れはしなかった。しかし動かない。大きいのか? だがすぐにじわりと動き出した。そのまま走り出しそうなのを抑える。水中で魚体が見えた。でかい、そして黒い背中。
プッと手応えが亡くなった。フックが外れた!?・・・外れたー!!・・・僕は一気に無力感に包み込まれていった。
やや増水。そして水温はかなり下がっていた。
大物バラしの前に釣った、ヤマメ域のアマゴさん(^^;)
「昨日Yと入った所は全部体高がすごいやつだった」
M川氏はそう言う。それならその流れの下流側に位置するこの区間も期待が持てそうだ。
僕がキャスト。流心でポーンとヤマメが跳ねた。ぎりぎりフッキングできた。
「こんな出方だと空振りが多いんだが、掛かったのう。体高がすごかろう」とM川氏。
確かによく肥えている。この辺りはエサが豊富なのだろう。
少し開けたポイントに出た。M川氏がすぐにライズを見つけた。
この区間の有望ポイント。熊を見るまでは毎年何回か訪れていたが、ここ数年は良い型を釣ることができていない。
低水温でハッチも少ないがチャンスはあるはず。慎重に一投目をキャスト。出ない。二投目、出ない。付き場が変わったのかも知れない。
少し上を流すとバサッと出た。空振り! ああ、もう出ない。
更に先にもう一つの有望ポイントがある。ここが本命だった。過去何度も合わせ切れをしている。今回こそは。
釣れるヤマメが全て幅広というこの流れ。
数年ぶりのM川氏との釣り。
いつも昼飯を食べる炊事棟にM川氏をはじめとする釣り仲間がいた。みんな昼食を済ませていた。
僕も昼飯の支度をしながら近況を話した。みんなとここで待ち合わせたわけではなかったが、この辺りに居るだろうとは思っていた。

先程の大物バラしの話をしながら僕は「あれは鯉だったかも知れない」と言った。バラした時にそう思ったのではなく、話しながらそうではないかと思い当たった。
引きがヤマメっぽくない重たさ、ギラリと光ることもなかった。
どん兵衛釜たまうどんはよくできてます。
増水時に歩くのはかなりのアクティビティ。
まるで新緑が押し寄せてくるような。 
M川氏はこの日の夜もこのエリアに滞在するそうで、Yやほかの仲間はそれぞれの予定で帰る。
僕はこの日の釣りは不完全燃焼だったし、M川氏ももうひと釣りする気だったので、夕方前まで一緒に釣りをすることにした。
この辺りで二人が入渓しても釣りができそうな流れに行ってみた。
「初めて入る場所じゃ」とM川氏が言う。
「いやいや、何年か前に一緒に入ったことありますよ」と僕。
後から調べるとここに一緒に入ったのは5年前だった。
まず僕がキャスト。M川氏の言うライズポイントへ。
「良い所っ!」とM川氏。フライはポイントを通過し出ないか?と思ったらバシャっと出た。これも幅広のヤマメだ。
その奥へM川氏が投げる。一発で出た。ライズの主はこっちだったか。良型だ。
短い時間だったが、二人で入ったにも関わらず、ライズの釣りを十分楽しめた。
僕はいっとき忘れていたバラしの魚は、やっぱり鯉ではなくヤマメだったのかも知れないと思った。
また流れの先にライズが見えた。




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新緑の渓をM川氏と釣り歩く。盛期はこれから。