其ノ四百七十一  キビレの夏の不安
先が見えないと、果たしてこんなに時間や労力をかけていいのだろうか? という不安が頭をもたげる。
過去には、フライフィッシングをやり始めてから最初の一匹を釣るまで。
乏しい釣果だが初めてのサツキマスを釣るまで。
海で初めての魚(メバル)を釣るまで。
という結果が出るまでに不安を感じることがあった。不安の期間が長ければけっこうしんどいことになる。
9月中旬になっても夏雲が沸き立つ。
カニのイメージのフライ。問題は水中のスピード。 形は似てなくてもリトリーブ時の状態が物を言う。
数年前からチヌを意識していたが、そんなには狙って釣りに行っている訳ではなかった。島でチヌのポイントを狙う場合は、メバルを狙うのとは逆の潮だからメバル釣りの前後に出来るのだが、それがなんだかついでのような感じでもあった。島のポイントは小さな漁港の湾で、干潮時に丁度いい足場が現れそこからキャストして狙っていたが釣果はない。
昨今、川の河口や遠浅の海でチヌのサイトフィッシングが盛り上がっている。良く行く釣り具屋でもやっている人はけっこういるし、みなさん結果も出している。しかも市内の川の河口などでだ。
なにがなんでもフラットのサイトで釣るんだ、とまでは思っていないが、それはそれでやってみたい。僕の中でそんな気持ちが出てきて、そんなこんなで新たな不安の種を抱えることになってしまった。
僕の住む広島市は太田川が河口手前で数本の川に別れて広島湾に注ぎ込む。
そのうちの一本の川、僕の家から車で20分、魚影の濃さは海底(川底)の無数の浅い穴(チヌが海底のエサを捕食する時にできる)が証明している。

この日14時干潮。いくらキャストしても反応はなかった。そして約1時間後、徐々に潮が満ち上がってきた。
雨上がりのフラット。蒸し暑さが半端ないっ!(^o^;)
ジリジリと焼けつくような日差し。9月中旬の真夏。
急にズンっとロッドが重くなりすぐに軽くなった。
(切れた!)すぐにわかった。今のはなんだ? 間違いなく魚だった。
僕は少し立ち位置を移動した。僕の影に驚いた小魚が走り回った。そして海中で砂が舞い上がった。なにか居たな。
水面では小さい魚がぴょんぴょん跳ね回っている。これは明らかに地合いだ。
新感覚の釣り体験、そしてキビレ様が現れた。
ふと足元を見ると、小さなカニがいた。まさにこれを意識したフライを使っている。僕はそのカニの砂地を動くスピードを見てリトリーブの速さを意識した。
コツン、コツコツン、二回反応、そしてロッドがグググーっと曲がった。
きた! なんだかわからないがきた! 必死でラインを手繰ると魚影が見えた。
暑さが一瞬、離れていき、不安の種が消えていき、僕は初めての魚を手にした。
リリースしたキビレ様を見送る。またよろしくお願いします(^^;)