2022 釣乃記
第弍話  まだ目覚めない川
ドアを開けるとその異様な空気に(なんだこりゃ?)と思わず声に出すほどだった。
湿度が高く生暖かい。およそ三月二週目の空気とは思えなかった。
周りの風景ももやっていて、空をみると雲の具合は今にも雨でも降り出しそうな、いや、パラパラっと落ちてきたじゃないか。
川を数メートル歩いてフライを流し、僕はじわっと汗ばむのを感じて、1枚脱ぐことにした。
上着の胸ポケットのスマホを取り出すとかなり水滴が付いているから、相当汗が出ているようだ。
この日、川に着いて気づいたが、ランディングネットを忘れてきていた。釣りに致命的な忘れ物ではないが、ヤマメを掛けた時の最後のキメでランディングなのだから、ないとなんとなく冴えない。なんだかこの忘れ物がこの日の釣りのリズムを左右するように感じた。
とは言え、この気温の高さならハッチやライズが十分期待できる。僕はいつの間にかネットを忘れたことは気にならなくなり、ひたすらキャストを繰り返した。
しばらく釣り上がるがフライに反応はなく、期待しているハッチも極小ユスリカらしき虫がちらほら、ライズはどこにも見られない。時折現れる低い堰堤下の溜まりにニンフを投げ入れてみるが、インジケーターが沈み込むこともなかった。
この日最高気温18度!。川もきっと動き出すはず。
食べたらなんの躊躇もなくすやすやタイム。
当たり前だがウェーダーは水漏れしないほうがいい。水が入るとなんとも気持ち悪い。
それに追い討ちをかけるように、目がかゆくなってきた。スギ花粉が飛んでいるのだろう。ひどいくしゃみは出ないが、目のかゆみだけでも苦痛だった。
負担を抱えながら釣り上がるがいつまで経っても釣れない。これはもう苦行だ。
流れの脇の少し小さな溜まりでフライに出た。空振りしたが、もう一度投げるとまた出た。いずれにしても小さい。      
この川では何年かごとに河原をごっそり削り取るが、今年もまたそれが行われていた。ポイントも消えてしまっていた。
それでも3回ほどフライに反応はあった。この時期によくある水面の捕食がまだ慣れない出方。
3回とも合わせは空振りしてしまった。

最初に入った区間は一匹も釣れずに終わり、それだけで昼になってしまった。
かなり歩いたので昼飯を食べることにした。結構腹は減っていた。
アマゴさん、たくさん食べて大きくなりなさい。
ルンルン(←古っ)で帰れるのはいつの日か(^^;)



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食べてすぐに昼寝。ここ何年か、釣りにきて眠ることになんのためらいも抵抗もなくなっている。
目が覚めると少し肌寒かった。これくらいが本来のこの時期の気温だろう。朝、川に着いた時が一番暖かかったようだ。

区間を変えて再入渓。やはり目立ったハッチはないままだ。
川を歩いていると右足に冷たさを感じた。前回の釣りでは大丈夫だったウェーダーの修理箇所からまた漏れ始めたようだ。
春のアレが飛んでるんですかね? 目がかゆい(>_<)。
もぐもぐタイムはデラックスうまかっちゃん。
またこんなことして〜・・・。ポイントが消えとる。 
その先に好ポイントがある。僕は慎重にキャストして、じっくり目を凝らしフライを追った。
しかし水面のフライに変化はなく僕は一度ピックアップした、その瞬間アマゴが食いついた。小さいアマゴが釣れてしまった。
そのアマゴの釣れ方に、なんだか昼寝あとの僕みたいに川もまだ目覚めていない気がした。

この日はネットを忘れて来たが、たとえ持って来ていたとしても結局出番はなかった。