其ノ二百七十  鮭を追いかけて
この山里に、彼らがやってくるσ(^_^;)
六年というとこれはまたずいぶんと長い時間だ。
その間にもいろいろとあった訳だが、変わらずヤツらはやってきていた。

その町の道の駅に着くとすぐにM川氏もW氏もやってきた。
この町の川に遡ってきている鮭を見るのがこの日の目的だ。
W氏は前日も町主催の観察会に参加していたが、あいにくの雨でしっかりと見れずにいた。
300mmのクマ用レンズで鮭を狙うW氏。里はかなり寒かった。
鮭のあの魚体側面の模様がはっきりと見えた。
ペアで泳いでいる。いや、もう一匹、ん?、もっといる。
W氏やM川氏もあそこだ、ここだと言っている。いったい何匹いるのか。
あちこちに魚体の痛みの白い色が見える。長い旅の果て、ダメージを受けた体で大仕事をやり遂げるために、最後の力を振り絞って気の遠くなるような道のりをここまでやってきたのか。
この中洲に挟まれたホソに。
開けて日曜日、天気はなんとか回復し、後悔を残したくないと連日でやってきたW氏だけでなく、鮭をみんとする面々が集まってきた訳だ。

日本海に注ぐこの川は中国地方最大の川で、194kmの長さを誇る。
普通鮭が遡る川といえばもっと北の地方を思い浮かべてしまうが、こんな西の川にも上がってきていたのだ。
六年前にニュースでこの川に鮭が遡ってくるというのを見て、すぐに見に出掛けた。残念ながらその時は鮭を見る事ができなかったが、この川にも鮭がやってくるんだと知った。
それから何年も見に来るタイミングを逸していたが、W氏の話しを耳にしてすぐさま高速に乗った。
道の駅で落ちあい、まだ昼前なのでとにかく見に行こうということになり、W氏の先導で観察ポイントへ向かった。
本流に注ぎ込む支流を数分走ったところにその場所はあった。
どこにでもありそうな里の川といったふうな流れの中、その魚影はすぐに見つけられた。
川が生きて鮭が生きて僕が生きていると、そう感じた。
                 (写真提供 W氏)
道の駅で遅れてやってきたY一家と合流し、そばを食べ、近隣の神社巡りもして、なんだかやたら密度の濃い一日になった。
みんなはそれぞれの場所へと向かい、僕は帰路についた。

でもちょっとだけ、また鮭を見たくなり僕は川へ寄ってみた。
ちゃんと彼らはいた。
僕もここにいるぞ、と呼びかけてみたが、彼らは全く僕を気にかけるふうではなかった。
西の地方では鮭の遡上は馴染みがない。そんな中で川に鮭が遡ってくるという事実はなんだかとても特別で貴重な出来事という感覚だ。
川に水が流れ、淡水魚が生活する。そんな日常はこれまで普通に受け入れてきた。そこに海から鮭が遡ってくるとなると事情は変わる。普段みかけない大型魚が何匹も上がってきて、そして産卵をするのだ。特別で貴重と言わずになんと言おう。この感覚は地元の人たちにとっても同じではないだろうか。
だから町主催の観察会も行われている。それはそういうことなのだろう。この町のこの川は特別だと、外に向けて発信したくなるのも無理はない。
更にはこういうことをアピールして、それがきっかけで自然に向き合ってくれる人が増えるのは歓迎すべきことだ。