其ノ二百六十  新マテリアルで巻く -参-
キュウシュウジカ(左)とエゾシカ(右)のボディヘア。
自然素材にシンセティックにと、フライを作るマテリアルは多岐にわたる。僕の使うそれらの多くは輸入されたものだ。
シンセティックには日本製のものもあると思うが、どれがそうでどれがそうでないとか、あまり意識せずに使っている。

今年、facebookをきっかけに手に入れることになったのが、日本のシカのボディヘアだった。
九州のプロタイヤーの方が害獣駆除で手に入ったシカの皮を自分でなめして製品化してものだ。
キュウシュウジカを使ったパラシュート。反応はすこぶる良い。
欧米で発達したフライフィッシングなんだから、フライを巻く材料もあちらのものを使うっていうのが順当なところだ。
でも釣法は欧米のものでも、日本の川で日本の魚を釣るんだから日本の材料を使うのも自然な流れだ。
自然素材、特に獣毛で国産のものっていうのは僕は目にした事がなかった。
それだけにこのキュウシュウジカとエゾシカのボディヘアは、えらく気持ちが惹きつけられた。
製作者のタイヤーの方も書かれていたが、この国産のボディヘアは外国産のものと比べて髄質(中の中空部分)が多くて皮質(外側)が薄い。強く巻きとめると盛大にフレアするので、それを生かしたパターンに良い感じだ。もちろん巻き方次第でフレアせずにフラットなウィングにもできるし。
ただ、獣毛のフライを使っていてよく思うのが、そのヘア自体の吸水性というか耐水性というか、そのへんだ。中空でも中に水がしみ込んできたら浮力は弱まる。外国産の皮質の堅いヘアはなんとなく髄質が少なく初期の浮力は弱いような気がするが、堅い皮質に守られて水がしみ込まず浮力は長く持続する気がする。
対して国産のヘアは実釣で使った感じでは初期浮力は強いが持続が弱いような。そう思うのはフライを吸水のカチーフで拭く時、ヘアを絞るように押すと水がよく出る感じがするからだった。
もちろんそういうのを補うのがフロータントなのだから、外国産ヘアに対抗する手だてはちゃんとある。
そしてなにより柔らかくてしなやかな国産ヘアはフッキングに有利という利点がある。
実釣でもそういう気がしている。もっと使って確証を得たい。

タイイングをしていて、そして釣りをしていて、国産のヘアを使っている実感はなかなか良かった。
今までが外国産が普通と思い込んでいたから余計にそう思えるのだが、日本の獣毛で日本の魚を釣っているのだと言う事が当たり前のようででも特別な気がして、巻く時もキャストする時もがぜん期待が高まっていくのがわかった。
エゾシカのヘアは先端ちょっと手前の白がアクセントに。