其ノ二百六十一  バンブーロッドの休息 -弐-
ケースからロッドを取り出すこの手が命を吹き込む。
僕の場合たぶんiPhoneの次に長い時間手にしているのがロッドだ。
シーズンを終え、手にする時間は一気になくなった。
そこで一年前にもお願いしたロッドのメンテナンスを今年もやってもらうことにした。
半年間の労をねぎらって、M川氏にしっかり見てもらう。
そもそも自分の道具になってから、それが数日とはいえ自分の所から離れるということはあまりない。
SYOWMAとSYOWKI、来年も頼むぞよ。
しばしの間メンテナンスのためにロッドを預ける。
ロッドの製作者がすぐ近所にいるという好条件は誰でも当てはまることではない。その点で僕はとても恵まれている。
ロッドも新しいうちはいい。しかし何年も使い込んでいくうちに使用感自体は変わる訳ではなくても、気持ちの上でなにかがたまってくる感じがする。物理的にここが調子がどう、とかそういうことではない感じ。
物理的なところもそうでないモヤモヤしたものも、M川氏が全部払拭してくれる。なんだか全部任せっきりの他力本願ではあるが、一番確かで安心できる方法だ。
今年の釣りは釣果としてはなかなかきびしくて渋過ぎるものだったが、そんな悪い流れまでも消し去ってもらえるように思うのはちょっとずうずうしすぎるだろうか? ロッドをメンテナンスをしてもらうことが、僕にとってはいつの間にか来年の釣りに向けての願掛けのようになってきている。
なんだかこうやって考えてみると、ロッドをメンテナンスに出す事はロッドそのものの調子を見てもらうだけでなくて、ロッドを見てもらう事で僕自身の調子も調整される効果があるようだ。
数日後、ロッドを取りにM川氏の工房へ行った。
去年見てもらった時ほど変なクセはついてなくホッとした。
ロッドを受け取った時、今年の渓流の釣りは終わったんだと改めて思った。
僕にとっては最後の釣りが最後ではなくて、こうやってロッドを見てもらう事が済んだら本当に釣りが終わるのだと思った。
もう今年の釣りを引きずることはない。ロッドには半年休んでもらう。僕はオフはオフであれこれ忙しくするつもりだ。
ケースの中へと収められるロッド。ちょっとの間おやすみなさい。