其ノ三百六  初釣り 強風 初詣で
神社へ向かう途中。ひっそり穏やかな舟溜まり。
去年の正月はあまりに不甲斐ない過ごし方だった。
二日に初釣りに行った以外は部屋でゴロゴロ。しまいには具合が悪くなった。
今回は大晦日までは順調に活動した。その歩みを止めずそのままの勢いで新年を迎えるために、元旦に意を決して初釣りに行く事にした。元旦に、というのは初めてかもしれない。
元旦は新月の大潮。前日には茨木の方で震度5弱の地震があった。
向かった島には好きな神社がある。長い参道といい感じの佇まいの本殿。なんだかしっくりくる神社だった。そこへ今年、初めて初詣でに行った。
その神社では地元の子供がお払いをしてくれた。ちょっと荒っぽいお払いは、きっと勢いを与えてくれたのだと思った。
初詣でを終えて目当ての港に向かった。そしてそれまで温暖な天気だと思っていたのが、一気にひっくり返された。
潮流の始まりとともに強風が吹き荒れ始めた!
目的の島の港ではカモメがしきりに鳴きながら飛び交っていた。
いや、飛んでいるというよりも風にあおられ続けている、といったふうだった。
iPhoneで確かめると風速8m近くある。前回の墓掃除もだったが、よりによって僕は天気の荒れた日に出掛ける巡り合わせがあるようだ。
しかし、正月ゴロゴロからの脱却のためには、もちろんここで引き下がる訳にはいかなかった。
今回、初挑戦のドロッパーシステム。その効果のほどは!?
リードフライとドロッパーフライ、それぞれ半々くらいにメバルが食いついてきた。
前回ほどの連続ヒットではないがそれでも過去の僕の海のフライフィッシングから考えると別物のような反応だった。
今回はドロッパーを試すだけでなく、もっと別の場所でも効果が見られるかも確かめるつもりだ。
僕は初詣での島からひとつ戻り、その島の港で再チャレンジすることにした。
それにしても、この強風、なんとかして(>_<)
連続ヒットの釣りから約ひと月経っていた。今回はフライを更に軽量化し、ドロッパーを試す準備もしてきている。
しかしこの風の中、フライをふたつつけてキャストするのはかなりリスクがある。バックキャスト一回のみ。あとは風に流されるように前方へラインを送った。
着水してもフライラインが風にあおられ浮かび上がる。ロッドティップを下げ、なんとかフライを水中に残そうとするだけで精一杯だ。しかし、必ず風が弱まる時がくる。今はそれを待つしかない。
見渡す限り釣り人はいなかった。元旦、強風、僕はいったいなにをしているのか?
潮はお昼くらいから下げが始まる。もうその時間だ。地殻プレートにも影響を与えるほどの月の引力。海上も海中も荒れに荒れている。
いよいよ今年も始まった。まずはメバルさん。
毎年初釣りの様子は違う。今年はこんなふうに。
突然それは始まった。
風にラインが持ち上げられドロッパーフライが水面にまで上がった時、そのフライにメバルが魚体を水上に出して飛びかかった。
あっと思って合わせても遅い。もう一度。またメバルが出た。しかしこれは掛からない。
キャストしカウントダウンを長めにする。少し引っ張るとググッときた。今度は掛かった。リードフライだった。
メバルたちにどういうきっかけでかスイッチが入ったようだ。
干潮が近い。もうワンチャンスしかないかもしれない。
二ヶ所目の港は数人の釣り人がいた。ここは気持ち風が弱い感じだった。
少し離れたところでキャスト。同じようにカウントダウンしてリトリーブするが反応はない。
ドロッパーも万能ではないのか。どう微調整すれば食いつくか?
重めのフライに変えての一投目、不意に風が止み、そのリードフライに食いついてくれた。
まだまだだ、と僕はもう一度向かい風に向けてキャストした。