2015 釣乃記
第弐拾四話  ゴギの夏便り
僕は焦っていた。

川へ下りる時はスマホま持たない。写真はGRで撮るし、通信は圏外だから出来ないし。
それでも持ってきてたらなあと思うのは、かなりの歩数いっているだろうと思ったから。

車を置いて林道を歩く。荒れた林道だから車では入りたくない。しかし平気で入ってくる釣り師もいるだろうから、いつ後方からそういう強者の車がやってくるか、気が気でなかった。
さて、戦闘開始準備。あんまり気負うなよ〜。
源流が近くなり、ずっと川沿いにあった林道も途切れた。
二股の分かれ。まずは左側。すぐに岩盤帯で通せない場所が現れた。その手前の溜まりで最初よりは大きいゴギが釣れた。
僕は息をつき、引き返すことにした。二股の右も進んでみたが。川はすぐに薮に溶け込んでいった。

林道を歩いて帰ると、やはりかなりの距離だったとわかる。
そして道中に釣り師の車は一台もなかった。朝の焦りも全くの無意味だったということか。
最後の夏空か。少しだけ秋の気配も。
行きや釣りの最中は割りと涼しかったが、帰りは暑かった。ただ歩いての移動だけで汗が吹きだして止まらない。
まだ車まで半分くらいの距離がある地点、ふと途中の流れが気になった。このまま帰るのもくやしいしちょっとやってみる事にした。
林道から下りてすぐの流れ。水深はありそうだ。かぶさる木の枝を避けてサイドキャスト。
一投目で出た。ロッドが曲がる! 簡単には寄ってこない!
この夏、元気なゴギがようやく僕にロッドを通して便りをくれた。
歩く距離が長いのには訳がある。この川の上流にある小さな滝下のポイントにいいゴギがつく。そこを一番最初に狙おうというプランのためだ。
いつもならそこよりかなり手前から入渓するのだが、例によって強者の車が僕を追い抜き上流に入られることを懸念して、とにかくいいポイントを一番最初に、と思ったのだ。
そのポイント近く、そろそろ入渓しようかと思った。幸運にも後から追いつく車は現れなかった。しかしそれも時間の問題だろう。
更に上流域へ。ゴギは生き延びているか?
これはまたチビゴギさん、生き抜いてこられたのですね。
入渓する場所で僕は唖然とした。すっかり変わり果てた風景、大規模な伐採が行われていた。
実際、林道を歩いている途中もやけに道が荒れていないなあと気付いてはいた。伐採した木材を運び出すために林道を整備し直していたのだ。
だからと言って釣りをしない訳にはいかない。僕は気を取り直して入渓した。
すぐにチビゴギが一匹。川沿いの木々がなくなっている場所だったのに、ゴギはいるんだなあ。
リバーサイドランチはサッポロ一番塩ラーメンと冷凍炒飯。
結局狙いのポイントは反応はなかった。ここを一番にと焦って林道を歩いてきたのに、なんだか徒労に終わってしまった。
もちろんこの先には行く。まだまだ流程はあるはずだから。
途中、また伐採された所に出た。山肌があらわになって、川まで日ざしが照りつけていた。
こういう場所は釣れる気がしないので、ばっさり飛ばして木が切られていない所まで移動。
木々に覆われた流れになると俄然釣れる気がしてくる。
しかし、最初の伐採場のチビゴギ以降、反応は一度もないままだ。
ほぼ源流。もうこの先に竿を振れる場所はない。
力強い尾びれに僕は救われた。
捨てられた木々で埋まった渓。これはないなー(`o´)