2015 釣乃記
第拾九話  見えないフライ、釣れないゴギ
あれよあれよと言う間に前回釣りに行ってからひと月が経っていた。なんだか時が経つのが最近やたら早いなあ。

斜面をゆっくりと下り、川筋に着いて様子を見た。水は・・・、いくらか多いようだ。山はけっこう降っていたのか。
梅雨の間、そんなに降った印象はなかったのだが。
昔だったら梅雨の長雨の増水は簡単には引かず、梅雨が明けてからもしばらく釣は出来なかった。
ま、時が経つのは早いので、その状況も変わったということか。
堰堤からのこの水、明らかに多い。てか、Tさんずぶ濡れです(^O^;)
フロータントを塗り直し、ようやく微かに見えだしたフライにボソッとゴギが食いついた。
お待たせしました、Tさん。
僕は先行を変わり、フライを交換することにした。

この日は春の里川の釣り以来のTさんとの釣行だった。
釣行先はどこにするか迷ったが、Tさんが入った事がないという谷に決めた。良い時期に入ればかなりゴギが釣れるはずだった。
誤算は増水と谷の暗さだった。
いつかベストの状況で、もう一度。
昼を回ったはずなのに、一向に明るくならない。深い谷では昼間の光量はずっとこんなものなのか。
二ヶ所目の川もゴギは出てこない。久しぶりのTさんとの釣りだったのに。今季が終わる前になんとかリベンジはしなきゃ。

ふと気がついた。いつの間にか僕は偏光グラスを紛失していた。
長く使っていたので惜しい気持ちが込み上げた。
しかし今は偏光なしの方がフライが見える。うっすら浮かぶドライフライにゴギが食いつくのがしっかり見えた。
やはり水は多いが、ゴギも神経こまやか過ぎません?
前回の釣りも増水だったし、帰る頃には大雨警報まで出る始末。
そうか、ひと月前はかなり降っていたな。それがあまり減らないままで今に至っているという事なのかもしれない。

フライが見えない。TMCエアロドライウィングのフローラルオレンジのポストなのに、だ。
オールマイティで視認性のいい色のはずだが、この谷の暗さと水の色とかが微妙に作用して、まるでフライを隠しているみたいだ。
好ポイントはあるけれど、ゴギは出てきてくれない。
谷全体が水で封じ込まれたような。
伏流水の岩場区間を行くTさん。
「フライが見えん〜」とTさんが言った。そうか、Tさんも見えづらいのか。
しかし、Tさんの場合、度を入れた偏光グラスのレンズの色がかなり濃いので、そのせいでもあるようだった。
僕の場合は谷の暗さだけでなく、通常視力が悪くなっていることの影響も大きかった。
免許の更新は大丈夫だったけれど、そろそろメガネ考えないといけないかなあ。
フライが見えない二人が暗い谷で苦戦。・・・う〜む。
最初に釣ったゴギ。こいつに救われた。
苦戦は二番目の川でも続く。
せめて少し明るい谷へ行こう。
なんでもっと早く気付かない? Tさんもなんとかゴギを手にし、僕たちはとにかく場所を移動することにした。

二番目の川の狙っていた区間始まりには車が停まっていた。
そりゃそうだな、時間もだいぶ経っているし。僕たちはその下流側へ移動し、入渓した。
狙いの場所だったら結構開けていたんだけれど、ここは最初の谷同様にかなり暗かった。
「あ、降ってきたのかなあ」 パラパラっと落ちてきた水滴に、僕は少しあせった。
「いや、風で木の枝の水滴が落ちてきたんちゃう?」とTさん。そうだといいんだけど。なにしろこの日の谷はけっこう深い。道路へ上がれるポイントは限られている。途中でひどく降り出したらちょっとやばいかも、と思っていた。
それにしてもゴギが出ない。反応が悪い。水位が高過ぎるのだろうけど、渇水よりはマシだろうに、と僕は思っていた。きっとこの増水が引き始める時ならかなり活性も上がるんだろうに。