2017 釣乃記
第九話  駆け抜ける風とループ
流れに突き出たアシに糸が掛かった。宙ぶらりんのフライにヤマメが飛びついたが届かない。
「ゆっくり引っ張ったら落ちんか?」とM川氏が言った。
その通りにゆっくり引くと宙づりフライがすすっと上がっていってアシをまたいでぽろっと落ちた。
すぐにバシャッと出た。
フッキングまでのこんなプロセス、なんだか久しぶりに楽しい。

M川氏との今年初の釣りは五月初旬、気持ちよく晴れた日だった。
うしろでM川氏が見ている。もう一度出るか? キャストしようとしたらゴッと風が吹いた。
「ヤマメ風じゃっ!」M川氏のこの言葉、ずいぶん前にも聞いた。そして言葉通り、風で散って水面に落ちたゴミや虫にヤマメが反応した。
風の止み間にキャスト。ループが伸びポイントにクロスにティペットが落ちる。そしてヤマメが出た。

道路に上がった。びっくりするくらい時間が経っていた。M川氏、こりゃあ車まで戻るのにもうひと汗かきそうですよ。
ケロロ先生、竹のリールシートがお気に召しました?(^^;)
掛け損なって、三回もでてくれたヤマメ様。
かなり流れを遡ってきた。食料は持ってきていなかったから、脱渓するまではお預け状態だ。道路からはかなり離れている。スマホで確認すると川と道路が近づくまではまだだいぶある。川と道路を隔てているのは土手と田んぼだけだ。その気になれば無理やり道路へ出る事はできなくはないが、さっと上がれるところまでは行こうとM川氏と話した。
ここ何年かのM川氏との釣りは今回の水系と同じところになっている。毎年解禁前、M川氏の口癖の「またどこへ行こうかと感がえんといけん」の言葉通り、年々釣行先の選択に頭を悩ませるようになった。
(どこか良い場所)、そのフレーズは簡単には叶えられない。しかし、案外いつも行く川にも見落としているところがあるかもしなかった。
夏を感じる風が川上から吹いてきた。
ギンギンに陽の当たる流れからでもヤマメは出た。
アシが伸び放題でキャスティングに精度を要求される。風が横から吹いてティペットが流されたら即アシに掛かる。しかしポイントはアシ際だ。

ぎらりと水中で魚体がうねった。
「おい、今なんかおったのう」
「ですねー。」
僕がキャスト。悪い流し方ではなかったがぎらりの主は出てこなかった。
高低差の少ない里川。フライフィッシングにうってつけのフィールド。
笑顔のヤマメ様。口角が上がってますね(^^)
流れからヤマメは途切れず出てきた。脱渓が容易でない区間だから釣り人も少なめであるからか?
時刻はとうに昼を回り、日差しの強さもピークに達していた。ここまでくると日陰でないとフライへの反応はしないように思えた。
「今年初めて汗をかいた」とM川氏。確かにそうかも。いつの間にか釣りで汗かく季節になっていた。

日は当たっているが沈み石のあるポイント。流すと出たが空振りしてしまった。もう一度キャスト。また出た、また空振り。
五月というとそろそろ日中の釣りがきびしくなり始める頃。
強い日差しによって紫外線もヤマメの警戒心も同様に上がっていくに違いない。
M川氏と入った川はフラットな流れの続く里川。キャスティングするのは気持ちいいが、果たしてどれだけの魚が残っているのか?
日中のドライフライへの反応もあまり期待しない方が無難だと思っていた。

しかし、アシの宙ぶらりんヒットを境に状況は変わり始めた。