2017 釣乃記
第八話  四月の荒れる夏日 -参-
下流のあたりをやってみようと思っていた。するとゴッと車を揺らすような強風。
(これはさすがに谷へもぐり込まないと釣りはムリか?)
僕はこの流域の支流をあれこれ頭に浮かべてひとつの谷を思い浮かべた。
ここは今年初めて入る、釣果の約束されたような固いコースだ。風と伸び始めたアシに悩まされながらポイントを絞って遡った。
行程の半分くらいまで来て、一度の反応もなし。僕はこの時になって焦りを感じ始めた。
谷も開けた場所では強風の洗礼を浮けたが、流程の多くは風はそうでもなかった。
そして脱渓地点、ついに一度の反応もないまま歩ききってしまった。一気に脱力と疲労が襲いかかる。

僕はとりあえず休憩と昼食をとることにした。近隣のキャンプ場にお邪魔する。
ずいぶん久しぶりの釣行ランチ。少し前までは昼飯時はハッチと重なるのでごはんを食べる場合ではなかった。今は日中の日差しの強さに釣れる気がしないので休憩がてら昼食はお昼時にとる。
メイストーム襲来! あれもこれも荒れ気味に(^^;)
CDC半沈みパターンをしっかりくわえてくれました。
ここ何回かの釣行でバラしまくっている原因が、ラインを手繰るのをもたついているのはだいたい見当がついている。それを回避するのにマイクロバーブのフックを使ったフライでなんとかバレないようにしようとしていた。
しかしマイクロバーブだろうがバーブレスだろうがバレる時にはバレるしバレない時にはバレない。それもわかっている。原因の核心、ラインの手繰りのもたつきをなんとかするべきだ。
そもそもなんで今年になってこうも顕著にライン手繰りのもたつきが起こりだしたのか? 去年やおととしはこんな不細工なバラし方はした覚えがなかった。前回思ったように歳とともに反射神経や運動神経が鈍ってきたから? 認めたくないな〜。
やっとのことで今季一番のヤマメを。
昼からの区間は更に上流域へ入ることにした。まだ昼食時と変わらない風が吹いている。
きっとこれはメイストームになるのだろう、低気圧の発達が強風をもたらしているに違いない。
午後の入渓だから朝からの間に誰か入っている可能性は高い。
ここでなんとかチビヤマメ一匹を手にしたが、あとが続かなかった。
昼寝リセットの効果はちょっとだけあったようだ。
僕はまた川から上がり次の流れへと向かう事にした。
エースコックのフォーがあっさりうまかった。あとは手抜きで(^^;)
午後の加速度。次なる一匹は?
まだ夕方には時間があるが、少し風が弱まってきたようだ。
ライズを期待できるポイントへ、僕は流れを遡った。
到着した時はまだハッチはなかった。待つか、投げるか。毎回こういう場面では迷うところだ。
少しだけ待つとぽつり、ぽつりとカゲロウが飛んだ。水面からだ。
そして絵に描いたようなライズ。まるで僕が来るのを待ってくれていたかのようだ。
よしとばかりにフライを投じる。ここはバーブレスで、と投げる前から決めていた。
満開の八重桜が僕を見守り、見送ってくれているような。
キャンプ場は強風にさらされていた。ほかに利用している人は誰もいない。
強風の中でフォーとカップ飯を食べ、どうしようかと思ったが少し眠ることにした。
風がビュービュー吹く中、それでもいくらかうとうとした。昼までの不調をリセットするには昼寝をするに限る。

風に当てられっぱなしで少し寒くなった。僕は慌てて起き上がり、車に戻った。
明らかに型の良さそうな水しぶきの上がり方、そこへキャスト。
一投で出た。合わすと鈍く重い手応え。僕はラインを手繰った。いや、手繰り損なった。ラインが握れない。またか!
焦ってラインを掴み直し、祈る思いで手繰った。バレたか? 
いや、ラインの先の重い手応えは残っていた。
また風が吹き始めた。どこからか桜の花びらが舞い、僕の周りを取り巻いた。
それでも当たり前のようにこの日も夏日を記録した。