2015 釣乃記
第弐拾壱話  夏ヤマメの消息 -弐-
ひと目見てコレはイイ! と思った。一週間前と比べるとずいぶん水が引いていた。十分釣りになる水位だ。
意気揚々とドライフライをキャスト。すぐにアブラハヤの洗礼を受ける。ここは躊躇せず一番いいポイントへ最初に投げるしかない。
しかし一番のポイントでさえアブラハヤに占拠されていた。
果たして、この川にヤマメは生き延びているのだろうか?
僕は大きく息をつき、上流側に立ちはだかる葦の壁に向かった。
至れり尽くせりの入退渓。・・・そんなウマイ話はない。
なんとか葦密集帯を抜け、目指すポイントへ。一ヶ所攻めるのにどんだけの労力を払うんだ?
期待の一投はまたしてもアブラハヤの猛攻にあって終わった。
ポイントはまだある。しかしその前にもう一度、葦の高密集帯を抜けなければならない。
春先なら川沿いの道路の途中から入れる場所なのだが、今は田の稲が育っているため、農家さんによっては厳重なゲートや電気柵を設置している。
次のポイントも電気柵で道路からは入れず、葦の林を突破するしかないのだ。
夏の深部にいる自分。きっと季節は移ろうはずだが。
三回目で着水。フライに向かう影が見えた。
僕は合わせた。空振りっ! 食っていない!? 早過ぎた!!
なんと今度は食う前にあおってしまった。最悪だ。
その直後、間違いなくヤマメと思った魚は立派なカワムツだった。

車に戻る道すがら、空とアスファルトから尋常ではない熱を浴びながら、目の前を飛び交うアキアカネになんだか不思議な夏だな、という気がした。
今回の釣り上がり区間は一週間前とは違った場所にした。いくつか期待の持てるポイントがあるのだが、それは春先の話。この猛暑の時期にどうなっているのか、想像もつかなかった。
その期待の区間へ向かうのを阻む葦の高密集帯。僕は葦がトンネル状になった流れの筋を進む事にした。
しばらくは進めたが、葦トンネルもじきに途絶えた。もう掻き分けて進むしかなかった。僕の身長よりも高い葦。その生命力たるや。
密集帯を抜けてもすぐまた次が(+_+)
イトトンボ様も警戒心全く無し。
第2高密集帯をなんとか突破。
少し開けたフラットな流れに出た。日はギンギンに当たっている。春先はいいのだが、やっぱり夏にここはないか? 
ファーストキャスト、着水と同時にうねる水面、あ、出た?
かなりの遅合わせ、でも手応えはあった。そしてラインは舞った。
合わせ切れだ。なんとここで!
せっかく出てくれたのに。よもやの失敗。僕は力が抜けた。

でもまだポイントはある。僕は気を取り直してフライを結んだ。
葦の樹海の住人。
コンビニオリジナルラーメン、ロースハム入り。
ヤマメに間違いないと思った出方と引きの正体は・・。
もはや汗はシャツの吸水能力をとうに超えていて、それでもぼたぼたと落ち続けた。
ウェーダーの中もびっしょりで、ほとんど役目を果たしていない。
容赦ない日ざしと葦、次第に僕の戦意はなくなっていった。

不意に葦の林の手前の溜まりでライズが見えた。僕はポカンとしてしまった。ライズ?
きっとこの日最後のチャンス。僕はティペットのクモの巣を取り払い強度チェックし、キャストした。クモの巣で水面に落ちない。もう一度。落ちない。
あ、葦に押し戻される〜(>_<)