2016 釣乃記
第拾七話  猛暑日からのエスケープ
僕もTさんも妙に気になってきていた。
全く釣り師の車が停まっていない。川筋に一台や二台、停まっていてもおかしくないのに。
目的の場所にも車はなかった。一年前、Tさんと来て先行者の車が停まっていた場所だ。
釣り師の居ない所に魚も居ない、なんて諺はないよな。とにかく入渓してみる。せっかく来たんだから。
この日も市内は35度を軽く越えているはずだった。
冷やしうどんはいかに冷やせるかが決め手。
陽が傾き、また暑い町への帰路につくσ(^_^;)
小さいゴギが顔をのぞかせた。
「これがここのアベレージ」とTさん。それでも最初の川ではドジョウみたいなゴギしか釣れなかったから、ずいぶんマシに思える。
かなり釣り上がった。しかし最初と川の規模があまり変わらない気がする。ここは小さい割にけっこう奥に深い支流のようだ。

珍しく広めのポイントが現れた。奥に投げたいところだがいかんせんバックがとれずフライは手前の開きに落ちた。
Tさんがさらにひと回りサイズアップのゴギを釣った。どうやら季節の進行とともにこの川のアベレージも若干上がっているようだ。
続けて上流へ向かうが、僕もTさんもライントラブルや合わせ損ないが増えてきた。
「集中力が途切れてきた〜」とTさん。全くその通りだった。
おそらく最後のポイント。僕がそこへ向かう時、つまずいて手を突いた。その拍子で水しぶきが顔にかかった。
冷たくて気持ちいい。暑い町には帰りたくないや、と僕は思った。
この流れと渓を渡る風。気持ちよくない訳がない。
水は少ない。これは予想通りだったが、ゴギは姿を見せなかった。
僕もTさんもこの川は期待できないと早い段階で見切っていた。
脱渓場所から林道へあがり車へ戻った。釣れなかった気落ちと渓の涼しさ気持ちよさとは引き分けといったところか。
少し早いが昼食をとろうと場所を移動、木陰で冷やしうどんを用意した。まずはひと心地ついた。
時間的にはかなり暑くなってくる頃だ。山間部とは言え日の当たる場所は町と変わらない。木陰だからまだしのげている。
心細い水量だがゴギはちゃんといた。
尾ひれのパワー炸裂っ!
今年の夏の釣行スタイル。
夏のカゲロウ。フライはテレストリアルですが(^_^;
ヘタにピックアップして奥にいるかもしれない魚を散らしてもなんだから、手前に流れてくるまで待つ事にした。
たら〜っとゆっくりフライは流れた。もうそろそろいいか? と思ったらフライがボソっと水中に消えた。
一瞬なんのことかわからずに合わすとぐいぐい引くではないか。
6'3"showkiなのでよく曲がる。小さな溜まりをさんざん走り回られた。
サイズはそうでもなかったが、逞しく立派な尾ひれのゴギだった。
Tさんの案内でふたつめの支流へ。ここは最初の川みたいに入渓地点まで車で行けるわけじゃないらしいから、入り口に車が停まっていてもらっちゃ困る。車はなく先行者は居ない事が確定したが、早朝に誰かが入っていないとも限らない。時間が経っている分気温も上がってきていて、快適さでは最初の川に分があるな。
僕たちは林道を入渓予定地点まで歩いた。この川は僕は初めて入る川だった。小さな流れだし渇水で水位も低い。ポイントは限られる状況だ。僕とTさんは交互に釣り上がるが川幅が狭いこともあって苦戦を強いられた。