2016 釣乃記
第九話  風の川、 凪の釣り
いったい何分こうやっているのか? 僕はふと我に返って今の状況にようやく危機感を覚えた。

まだ水は多かった。それでも辛うじてか釣りは可能だ。僕はたっぷりの水位にフライを浮かべた。
まるで当たり前であるかのようにフライにヤマメが出る。なんだか余裕の釣りだな、と思った。フィネスもなんとか扱えている。
僕は小さなヤマメをリリースし、次のポイントへキャストした。
天気は上々、多めの水位はこの季節には好条件。出来過ぎだな。
もうこうなったら寝るしかないです。
稜線に日が隠れた。なんだかずいぶん時間のロスが多い日だったと思った途端、なんだかどっと疲れが出た。
そしてその疲れの気付きと同時に風が止んでいるのにも気付いた。日が隠れた途端に、だ。
風のない状況でのキャスティングのなんと楽なことか。思い通りの場所にキャストできることがすごいと思える。
僕は思い通りに投げて思い通りに流して、小さいけれどきれいなヤマメを手にした。
風の川でなんとか一匹。
立ち込んだままいったい何分こうやっているのか? 僕は今の状況にようやく危機感を覚えた。
全く風は止む気配はなかった。しかも向かい風のままだし、だんだん強くなってきている。
試しにキャストしてもフライは全く前に行かない。フィネスはあきらめてティペットを切って短くして、とにかくフライを前に飛ばす。
オーバーヘッドは不利だ。サイドキャストで水面スレスレにループを作りキャスト。なんとか飛んだがフライは着水してもすぐドラグがかかった。全く釣れそうな気がしなかった。
カワムツが何匹か釣れた。釣りは成立しているが、まだ風は収まる気配がない。
どうにかこうにかフライを前方に落としながら、時折吹く強風に立ち止まりながら、僕は釣りを続けた。
こんな強風の中で釣りをするのは楽しくない。キャスティングが大きな要素のフライフィッシングなのだから尚更だ。
突然バシャッと飛沫が上がった。昨年良型を釣ったポイントだった。風に負けないように前へ飛ばす事に集中し過ぎていた。
海ならまだなんとかしようと思うんだけど、川で#4だとな〜(>_<)
いったん川から上がる事にした。風に当てられていてしかも増水だったしかなり体力を消耗した。昼はとっくにまわっていたのでまずは腹ごしらえ。いつもの炊事棟のあるところへ行き、ささっと用意して食べた。すると急激に眠たくなってきた。僕は我慢できずに横になった。
きっとものの数分だったかもしれないが、ずいぶんぐっすり寝た気がした。目が覚める直前まで夢を見ていた気もするがどんな夢だったかは覚えていない。風は・・・、まだ吹いているようだ。僕は昼食の片づけをし車に乗り込んで、朝の強風で断念した先の流程を目指した。
久しぶりに一面スミレを見た気がする。
二度目のフライへの魚のアタックのあとくらいから少し風が吹きだした。春先なら午後から吹き荒れだすことはあるが、もうだいぶ季節も進んでそんな強風はないだろうと、特に気にせず僕は進んだ。
少し広めのポイント、これは居るな。僕は幾分緊張しながらそれでも慎重にキャスト。フライは。。。フィネスだとよく見失う。いいところに流れていればヤマメの起こす飛沫でわかる。
しかしフライは見えない。飛沫もない。ラインを手繰る。ティペットを引っ張るとフライはウェーダーに突き刺さっていた。

なんでこんなことになるのか? 僕は合点が行かないまままたキャストした。ラインはちゃんと飛んでいるような感触はある。しかしフライは手前に落ちた。ティペットがおかしいのか? 
と、僕の立つ数メートル先の葦が大きく揺れた。
(!? 風かっ!??)
僕には風は感じられなかったが、すぐ先で吹いているようだ。しかも強い。

ゴッと僕に風が吹きつけてきた。こんな強風が吹いていたのか? とりあえず風が止むのを待とう。これではキャスティングできない。
全く突然にそれはやってきた。
不思議なもので、ぴたりと風が止む、夕方。
今年初(?)のヘアウィングパターン。