2016 釣乃記
第参話  危機的ニャンコ先生の島、 そしてライズゲーム
M川氏がロッドをあおった。陽の当たる小プールでようやく反応があった。
M川氏が写真を撮っている間に、僕がもう一匹追加。水はまだまだ冷たいが、どうやらヤマメの活性は上がり方向できているようだ。
先行者の車が見えたのを機に僕たちは川を上がった。そろそろライズを期待しているポイントが頃合いの時間になったはずだ。
しかし目当てのポイントには別の車が停まり釣り支度を始めていた。ほんのちょっとの差だった。僕たちは次の場所へ向かった。
春の訪れがようやく水辺にも。
向かった川に先行者はおらず、僕たちは急いでおにぎりをほうばり川へ下りた。ウグイがぎらぎらする流れを横切り、ライズが起こるはずの流れに到着。
ハッチは散発的だった。ライズは数回あっただけだ。僕とM川氏は岸際でひたすらライズを待った。

寒風が吹く中僕たちはみたび移動することにした。
あれこれ悩んだ上で最初に入った流れの下流域へ入る事にした。
時間的にもここが最後になる。
茶ニャンコ先生! 灰色ニャンコ先生知りません?
やっぱり僕のソルトの釣りは潮流があってこそ成立する。
幾度となくこの防波堤でメバルを釣ってきたのだが、この日ほど釣れる気がしないのも初めてだ。
ほんの数投で移動した。若潮といってもいちおう満潮過ぎの下げ潮の時間帯ではある。少しでも望みのある場所を求めて。
もちろんこうなったらいつものパターンで、三番目のニャンコ先生の島へ行くしないととっくに腹は決まっていた。というか、この日の条件ではそれしか望みがない。
そろそろハッチが始まる時間。ライズはどうか?
流れはまだ太かった。ここは昨年M川氏といっしょに入ったところだ。あれは確か四月の下旬だった。まだここに入るには早過ぎるのか?
M川氏が数匹釣る。そして僕がキャスト。流れにもまれて沈んだフライをたぐり寄せたがなんかへんなものが引っ掛かっている。
寄せてみると小ヤマメだった。M川氏が笑っている。

僕はひと息ついた。ふと前の日のことが頭に思い浮かんだ。
明け方まで降っていた雨はすっかり上がり、あとには霧だけが残されていた。
僕は視界のわるい島の道を四番目の島へ向かって車を走らせた。
潮は若潮、決して条件は良くない。人にきびしい気象条件なら釣れるの法則も、今回は人にではなく潮流の条件が悪いのだから当てはまらない。
いつもの港の防波堤から海を見ると見事に凪いでいた。う〜ん、これはきびしそうだ。
釣り人はほかに誰もいない。でもやってみるしかない。
まだまだサイズに不満足。桜が咲けば、きっと。
ぎらぎらを狙うM川氏。その正体は??
おっと、よろけた。危ない危ない。すっかり頭は別の事に没頭していた。
気が付くとM川氏はずいぶんと上流へ移動していた。土手を見るとW氏が居るのが見えた。M川氏と声を交わしている。
僕はM川氏に追いつき、先行を変わった。ゆったりとした流れにキャスト。緩流帯でハヤがライズしている。カゲロウのハッチもヤマメのライズももう少し先かな。
僕は島のニャンコ先生のことをぼんやり考えながら、流れるフライを目で追った。
霧に包まれた島。少し肌寒い。
凪いだ海は三番目の島でも同じだった。ま、隣の島なんだから劇的に変わることはないだろうが、そんな中でもなんとかなるのがこの島だと思っていた。
しかしこの島も今までにないほど釣れる気がしない状況だった。
霧は晴れ夕暮れが近づき、干潮になった。僕はせめてニャンコ先生に会おうといつもの場所へ港ぞいの通りを急いだ。
そこには茶色の先生はいたが、毎回駆け寄ってきてくれていた灰色ニャンコ先生はいなかった。もうどれくらい会っていないだろう。
霧は晴れてきた。でも僕の心のもやもやは晴れない。