其ノ三百六十七  大潮の日の混乱
ほとんど潮流がなくなり、あれだけ見えていた魚影も姿を消した。
穏やかになった海中に時折でっかいエイの姿が見える。
僕は潮流横の防波堤を諦め、すぐ近くの別の小さな防波堤へ移動した。潮位もかなり落ちている。
防波堤先端には釣り人がひとり。そうこうしているうちにもう二人。これから干潮になろうというのに、なに狙いだろうか?
そもそもこの日は大潮、この日の島は県内最南端で午前九時満潮、十一時くらいに潮流が始まる。
で、僕が起きたのは十時前だった。二度寝はいかん、二度寝は。
島に着いた時は潮流真っ只中。目当ての防波堤に人はおらず、しめしめと先端を目指すが、防波堤沿いの流れの早さに驚いた。川の増水の急流並みだ。
ここ数日PM2.5の観測値が上がってきており、僕も鼻がおかしい。全体的に春っぽい穏やかさなのに急流だけが別次元だった。
この先にある流れを見て、僕はびっくり(>_<)
思いのほかキャスティングは普通にできる。
初釣りでティップ側1/3を紛失したタイプVl だったが、もともとシンキングラインはテーパーがゆるいので、どこのセクションだけ切り取ったとしてもそれなりにキャストできるんだな、たぶん。
そちらの問題は気にならないが、それよりもこの凪いだ海と初釣りよりは低いがそれでも暖かな気温が深刻だ。
こんな穏やかな日に釣れた試しがない。
ランチはずいぶん遅くに、コンビニ豚汁を。
糸こんがらがったのでほどき中。切った方が早いって(^_^;
寒さでではない鼻水をすすりながら、急流の潮流へキャスト。潮上に頭を向けて泳いでいる大小の魚が見えている。
その魚たちに向けてフライを流し込む。なるべくナチュラルに、そしてターンさせ、さらに誘いをかけて。もう川の釣りと同じだ。
しかし魚たちはフライに見向きもしない。潮上に頭を向けているのは流下物を捕食するためだろうに、何が違うのか?

ムキになってキャストを続けていて腕が痛くなった。しばし休憩。
フライもいつものベイトフィッシュやらヘロンやらマラブー、さらには例の細長ティペットに小型シュリンプのシステムまで投じたがコツリともしなかった。
到着が遅かったからもう潮流が終わる頃だ。
初釣りはラインを切ってしまうトラブルがあったにせよ、釣果としてはまずまず満足している。それがその翌週に早速デコることになったら、初釣りの御利益も薄れる気がしてしまう。なんとかそれは避けたい。
日没後もまだ粘る? 干潮なのに?(^_^;
ゴゴっと風が吹いた。防波堤上に立っていた僕はあやうく帽子を飛ばされるところだった。
海面が波立っている。なんか潮流があった時と雰囲気が変わった。
あとから来た二人は別の防波堤へ行き、僕と先端の人だけになったがすぐにまた若い人がルアーロッドを持ってやってきた。僕のすぐ横によじ登る。ち、近い。
沖に向かって投げる彼に対し、僕は防波堤沿いに平行に投げるのでバックキャストで彼のいる所にラインが伸びる。やむなく僕が少し移動した。
港に夕暮れが迫る。決断の時!?
もとより潮流と魚の活性がぴったり同調するとは思っていない。潮流とは別の何かがあるんだろうとぼんやり想像はつく。
防波堤の岸側方向に移動したので、さらに水深は浅い。陽は傾き、もうほぼ干潮だ。
防波堤の際に沿うようにキャスト。風で失速しかなり手前に落ちる。そのままカウントしてリトリーブすると何かに引っ掛かった。浅いから待ち過ぎか。
強く引くと外れたかと思ったが上がってきたのは夕日に照らされて赤く染まるカサゴだった。
メバルよりも色味が際立つカサゴっち。