其ノ二百四十六  河川敷に集いし者達、竿を振る(4)
河川敷は低番手のロッドを振るにはちょっと広過ぎる感じがして、渓流で振るのとは印象が違った。
お世辞にも上手とは言えない僕のキャスティングを、M川氏やほかの人たちに見てもらい、集中してキャストを繰り返していると腕がだるくなってきた。力の入り過ぎだ。
僕のあとからも少しずついつものメンバーが集まり始めた。
キャスティングの練習だけでなくM川氏のロッドを熱心に見る人たちもいる。気になるロッドが目の前に、ということになればじっくり見てみたいもの。
様々なロッドに様々な振り手の思いが託される(!?)
うららかな冬晴れ、ラインも気持ちよく伸びます。
何年ぶりかでM川クラフトのイベントが行われた。
以前はロッドの試投会という形で2003年2004年2007年と行われて、2008年は雨天のため釣り具屋で行われた。
そして数年を経た今回はキャスティング練習会という名目だ。

午前中、穏やかに晴れた冬の日、会場の河川敷に着くとすでに数名がロッドを振っていた。
僕も着くや否や持参したロッドを継いで振ってみた。
禁漁になってからはバンブーロッドは振っていなかった。
がっつり凝視する山K氏。どうでしょう?
キャスティングに夢中になるとなかなか来年の釣りへの思いへ、と言うようにはイメージが繋がってこない。
そして実際に来年解禁になって釣りをやり始め出したら、今度はヤマメを釣る事に夢中になって静かに思いを馳せる、なんて悠長なことは言っていられなくなる。
きっと以前の試投会の時のようにゆっくりロッドをながめたり、あるいは部屋でのんびりしている時にこそ、そういうことを考えるのが相応しいのだろう。
M川氏のロッドを数種類手に取って振って見ると、それぞれが持つ特徴がよくわかる。
僕のロッドともまた違う7フィート#4の「SHOWMA」は、僕の振り方にすごく合っているような気がした。
ほかの面々もそれぞれの思いを持ってロッドを手にしていた。すでに来シーズン用にこの日新しいロッドを受け取った人もいた。
今回は普段手にする機会のない高番手のロッドを振らせてもらい、そのパワーの違いに戸惑ったりもしたが、それもまたいい。新たな感触は今までの釣りの価値観を揺さぶってくれそうな気もする。
でも高番手と言えば、最近使っているライトソルトロッドは・・・、あれ、何番だっけ?
うおー、なにか嗅ぎつけたか?
うう、空が青くてラインが見えん。
以前の試投会の時は、禁漁になってから押さえ込まれていた釣りへの思いが、ロッドを振る事によって刺激されて呼び起こされる感じがしていた。
この日もさぞやその感覚が出てくるだろうと思いきや、さにあらず。予想外にキャスティングやロッドに対しての方にばかり気持ちが向かっていた。

ひとしきりロッドを振り、昼食を取る事にした。M川家で用意してもらった豚汁に舌鼓を打ち、僕は数年ぶりにサタケのマジックライスも食べてみた。
昼食をとり、またキャスティングへと。誰か出前一丁食べない?
久しぶりにラインを通し、外の空気を吸ったロッドたち。
今回は練習をしにきたのだから練習をせねば。
僕のひどいテイリングも少し改善の糸口が見えてきた。
気持ちよくループが伸びるとそのループの先に来年の釣りが垣間見える気がした。
しかしループが乱れると見えかけていたものが霞んでしまった。
こりゃあもっと練習しないといかんな。僕はロッドを振るのを止めて肩をぐるぐる回した。

少し風が出てきた。河川敷から見える山は白く煙り、雪が降り出したようだった。